文庫本「冬の鷹」よんだ

文庫本「冬の鷹」よんだ
古本屋で発見し興味深く読んだ。

「冬の鷹」吉村昭新潮文庫

冬の鷹 (新潮文庫)

冬の鷹 (新潮文庫)

江戸時代に日本で初めてオランダ語医学書「ターヘルアナトミア(人体解剖学図解書)」を日本語に翻訳した「解体新書」出版した前野良沢杉田玄白中川淳庵らの小説だ。
小学校時代に教科書で杉田玄白の書いた「蘭学事始」のさわりを読んでいたが、この小説ではほぼ全貌がわかって興味深い。日本の歴史的な医学的偉業でもある解体新書出版後の人生の明暗が大きく意外だった。

解体新書
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%A3%E4%BD%93%E6%96%B0%E6%9B%B8

実質的な翻訳者だった良沢は完成した「解体新書」に自分の名前を載せることを拒否したため、無名のまま貧窮生活の中オランダ語を勉強続けてのち亡くなる。対照的に、出版の名プロデューサー役だった玄白は、出版を足がかりに医師、蘭学者としての名声を富を得る。

教科書の「蘭学事始にあったフルヘッヘンド」の翻訳のエピソード話は、実は後から加えられた挿話だったようで本物のターヘルアナトミアには「フルヘッヘンド」という単語はどこにもないそうだ。前野良沢が訳者であることは、出版30後に、玄白が書いた「蘭学事始」がで世間に知られたというのも意外だった。

前野良沢オランダ語を47歳にして学び始め、ターヘルアナトミアを有志たちと辛苦の末3年5ヶ月で翻訳したというから驚きだ。和訳というよりほとんど暗号解読に近い作業で、この翻訳以降はいくつものオランダ語ラテン語書物の翻訳をしているというから天性の語学才能があったようだ。

吉村昭の淡々とした文章で浮き彫りされる蘭学者前野良沢の人間像は多くに人に読んでもらいたいものだ。